ケイパビリティ(Capabilities)は英語辞書では才能や能力と訳されますが、ビジネスでの使われ方はそこから少し発展します。
主に企業の強みとして認識され、経営にどのように活かすかという視点で議論されることが多いでしょう。
ここではケイパビリティの意味や使い方、その重要性について詳しく解説します。
ケイパビリティとは?ビジネス上での意味や使い方について
ケイパビリティという言葉がビジネス戦略で使われる場合、企業の持つ組織力や競合他社に勝ち得る素養を意味します。
経営戦略の重要概念でもあり、「ケイパビリティを把握する」「ケイパビリティを高める」といった使われ方をするのが一般的です。
ケイパビリティを強化して競争力を獲得することは、持続的な企業の成長には欠かせません。
まずは自社のケイパビリティを正しく把握することが重要なのですが、実際にはケイパビリティの把握は容易ではないことも事実です。
ケイパビリティは、単にその企業が得意とする分野を指す言葉ではないからです。
たとえば、「技術力」が強みという企業があり、実際に有能な製品を市場に提供できていたとしても、それがケイパビリティだというわけではありません。
製品価値を高めるためクオリティを上げるのはもちろん、流通を整えたり相談窓口を設けたりといった総合的なビジネスプロセスを遂行できる組織力を持ってはじめて、ケイパビリティを得ることができます。
つまり、事業に関連し、研究開発から製造販売、流通に至るまで組織を横断し、他社に秀でる強みを持つことがケイパビリティだと理解してください。
ケイパビリティを把握する方法とは?
ケイパビリティが論文として発表されたのは1992年です。
そのときの定義としては、ケイパビリティは単体ではなく「事業全体のプロセスの強み」だとされました。
提唱者によると「バリューチェーン全体を通しての組織の遂行能力」ということなので、まずは事業の一連の流れを俯瞰で捉え、客観的に他社より秀でる強みを見つける必要があります。
どのような事業を行っているかは企業によってそれぞれですが、たとえばメーカーであれば研究開発から始まり、部品の調達や製造、販売やアフターサービスまですべて含めて把握することが重要です。
事業に関わる組織を横断的に眺め、自社製品の価値を高める組織力を見極めることがケイパビリティの把握につながります。
ビジネスプロセスを遂行する能力そのものがケイパビリティだとすれば、たとえ部分的に他社が模倣したとしても、時間をかけて構築してきた組織力すべてをマネすることはできません。
そうした意味では、ケイパビリティは組織能力であるとも言えます。
人材の確保なども含め、ビジネスを実践するリソースが組織のどこにあるかを把握することができれば、自社の真価を知ることができるでしょう。
ケイパビリティの洗い出し方
それでは具体的に、ケイパビリティを把握する方法をまとめておきましょう。
バリューチェーンの洗い出し
企業活動を機能で分け、価値が生まれる部分を分析します。
メーカーであれば研究開発、原料調達、製造、販売、マーケティングなどに区分し、バリューチェーンをリストアップしてください。
バックオフィスが実施している支援活動についても、人事労務、総務経理、人材や技術開発などに区分して分析します。
強みの抽出
洗い出したバリューチェーンの中から強みを抽出し、ケイパビリティとしてまとめます。
競合他社より優れた点に注目し、導き出すのがポイントです。
ケイパビリティとコアコンピタンスの違いについて
コアコンピタンスは企業の中核的な力を意味する言葉です。
一見するとケイパビリティと似通った言葉にも感じられますが、両者は深く関係しながらもまったく異なる意味を持ちます。
ケイパビリティはバリューチェーンを部門横断的に遂行する能力、コアコンピタンスは特定の能力をそれぞれ意味するからです。
もちろん相互補完的な関係を持ちますが、コアコンピタンスそのものに横断的な組織力は含まれません。
この話ではホンダ社の北米展開の事例が多く用いられますが、ホンダ社の高度なエンジン技術がコアコンピタンス、ディーラー管理能力がケイパビリティと言えます。
他社が模倣できないくらいエンジンの技術を高めることは、同社内の研究開発部門で完結する話です。
でも、ディーラーへ熱心な研修を行い、営業やサービスのノウハウを教授し徹底管理を行った組織力は、部門を超えたまさにケイパビリティです。
いずれも一朝一夕にマネできるものではありませんが、ケイパビリティよって構築した強固な販売力は、競合他社が模倣できる類のものではありません。
コアコンピタンスとケイパビリティ、双方が理想的に補完した成功事例と言えます。
ケイパビリティを重視することで得られるメリット
ケイパビリティを重視することには、企業の競争力を強化し、市場や環境の変化に組織的な適応力を持てるというメリットがあります。
このことは市場への新規参入のリスクを低減し、企業間の競争や代替品の脅威に打ち勝つ力を持つことを意味します。
端的に言えば、組織を徹底強化することで持続的に競争優位性を確立するというのが、ケイパビリティ強化の目的です。
原則として、競争力の源泉は商品ではなくビジネスプロセスにあり、それを継続的に顧客に提供することで企業の存続や成長を維持するという発想になります。
事実、ケイパビリティを意識した経営戦略は、中長期的に効果を発揮する期待があります。
ビジネスプロセスそのものが価値であり資産である以上、競争優位性を長期にわたり守れることが企業にとって何よりも大きなメリットと言えるでしょう。
ケイパビリティを重視した経営を成功させるためのポイント
ケイパビリティを重視した戦略には、ケイパビリティベース競争戦略とダイナミックケイパビリティ競争戦略とがあります。
ケイパビリティベース競争戦略とは、独自のケイパビリティを活用することにより競争優位を構築する戦略です。
ダイナミックケイパビリティ競争戦略とは、ビジネス環境の変化をスピーディに認識し、それに合わせて経営資源を再構築再編成する戦略です。
現在はダイナミックケイパビリティ競争戦略の時代と言われ、市場の変化にいかに素早く対応できるかが鍵と言えます。
そのためには、自社を取り巻く経営環境の変化を見る4C分析、自社の強み弱みを内部/外部の視点で洗い出し今後の成功要因を探るSWOT/クロスSWOT分析などの実施が必要です。
ケイパビリティは「模倣可能性」「移転可能性」「代替可能性」「希少性」「耐久性」で評価可能です。
過去現在未来の時間軸で立ち位置を俯瞰し、新たなケイパビリティを構築していくことが成功のポイントと言えるでしょう。
メリットを理解してケイパビリティを取り入れよう
ケイパビリティはビジネスプロセスそのものが強みとなり、企業の組織力が市場で価値を生み出すという考え方です。
技術は競合他社に模倣されることがあるとしても、組織力は模倣することはできません。
ビジネスプロセスは企業の資産であり、有すれば長期にわたり競争優位性を持てる期待があります。
ただし、現代は市場環境が激変し、企業は環境適応業でなければならない時代です。
持続的な成長を続けるためにはこうした環境変化への適応も必要とされ、ケイパビリティ戦略も従来のベース戦略からダイナミックケイパビリティの視点へと変わりました。
いずれにせよ自社の組織的な強みを把握し、伸ばし、地位を確立するためには柔軟でクリエイティブな戦略が必要です。
今後は日本企業においてもこうしたケイパビリティ戦略が必須となり、独自のビジネスプロセスを強化する方策が取り入れられていくでしょう。