カンバン方式という言葉を聞いたことはありますか。
経営学を学んだ方、経営や製造現場に携わっている方ならご存知かもしれません。
トヨタ自動車が始めた効率的な生産方式であり、高度成長期など日本企業が飛躍的な成長を遂げた時期には、他業種もこぞって真似をした方式です。
現在でも導入をしている企業は少なくありません。
どのような特徴を持つのか見ていきましょう。
カンバン方式とは?カンバン方式の基礎知識をわかりやすく解説
カンバン方式とはいったいどんなものなのでしょうか。
カンバン方式の基礎知識をわかりやすく解説していきます。
トヨタが開発した生産方式
トヨタ自動車といえば、日本を代表する自動車メーカーであり、世界的にもファンが多く、自動車業界において世界的な地位を築いています。
常に大きな利益を上げ、日本経済の牽引役として長く君臨し続けています。
そんなトヨタ自動車が、まだ今ほどの世界的知名度もシェアもないときに、どこにも負けないトップメーカーを目指すべく開発したのが、カンバン方式です。
無駄のない生産方式
トヨタ自動車ではジャストインタイム方式といって、必要なものを、必要なときに、必要な量だけ作るという方式も有名であり、徹底的に無駄を省いて、効率良く生産することに重点を置いています。
付加価値をもたらさない状態や結果は徹底的に省くという考え方であり、作りすぎ、手待ち、運搬、加工そのもの、在庫、動作、不良を作ること、さらにこれらの状態をすぐに改善しない時間を無駄と呼んでいます。
カンバン方式は、生産工程における無駄を作らない方式です。
カンバンによる情報伝達
カンバンとは看板と書くボードのことで、部品名と数量などが記載されたものです。
たとえば、部品1ケースにカンバン1つを取り付け、開封して使用すれば、カンバンを抜いていきます。
部品の在庫にはカンバンが付いているので、付いているカンバンの数と同等の在庫があることになります。
一方、使用すれば抜かれていくため、抜かれたカンバンの分だけ、部品メーカーに発注をすれば、無駄なく在庫を手に入れることができるという仕組みです。
カンバン方式のメリット·デメリット
トヨタが巨大企業へと成長を遂げるとともに一世を風靡し、業種の垣根を越えて導入が進められたカンバン方式ですが、メリットもあれば、デメリットもあります。
どのような点が強みで、どのような点が問題なのか見ていきましょう。
カンバン方式のメリット
生産工場において必要な部品を必要なときに、必要なだけ無駄なく調達ができ、部品の過剰在庫を抱えることがありません。
在庫リスクを回避でき、低コストで効率的な生産が可能です。
カンバン方式のデメリット
急な需要が生じても、部品の在庫がないのですぐに生産量を増やせないおそれがあります。
生産側は無駄なく低コストな生産ができても、部品メーカーの側の負担は大きくなるのが、カンバン方式のデメリットです。
カンバンが抜かれた分、速やかに部品を補充するよう求められるので、メーカー側はいつでも要求に応えられるよう、部品をストックしておかなくてはなりません。
ですが、実際に発注されるとは限らず、在庫を抱えてしまうデメリットがあります。
本体や製品を生産する工場にとってはメリットがあっても、それは部品や原材料を供給するメーカーや事業者の犠牲の上に成り立っているという側面もあるのです。
カンバン方式を用いた管理方法の事例
カンバン方式は自動車業界に限らず、さまざまな業界や企業でお手本にされて導入されてきました。
現在でも利用している企業は少なくありません。
ここでは、いくつかの管理方法の事例をご紹介します。
タスク管理
タスク管理はオフィスワークをはじめ、さまざまな業界、業種、職種でのプロジェクト管理やルーティンワークまでさまざまな業務管理に役立てることができます。
物理的な板カンバンではなく、エクセル上にカンバン状のカードを作り、それぞれのタスクを書き出して、工程やスケジュールごとに貼り付けていきます。
すると、スタッフAがほかの人より多くのタスクを担っていて負担が重たくなっている、BとCが同じタスクを重複して行っている、行わなくてはならないXのタスクを誰もやっていないなどを、シート上で見える化することが可能です。
それぞれのタスクをお互いに理解し、情報の共有をし合い、協力し合いながら無駄なく効率的にタスクを遂行できるという方法です。
在庫管理
トヨタのカンバン方式は、実はスーパーマーケットでの在庫管理の方式を見て思いついた方式なので、在庫管理にはスマートに当てはめることができます。
スーパーやコンビニなど小売店で主に行われている方式であり、店頭在庫を定期的に検品し、売れた分だけ補充する、在庫がなくなった分だけ発注するという方法です。
売れ筋商品は店頭在庫もどんどんなくなり、発注機会も増えます。
一方、売れ行きの悪い商品も把握しやすくなります。
売れない商品でも生活必需品なら、必要最小限だけ仕入れるようにする、必需品以外なら販売の取り扱いを停止し、別の売れ筋商品に入れ替えるなど、効率的に商品管理ができ、売上アップや収益アップが目指せるのが利点です。
アジャイル開発
アジャイル開発はシステム開発の方式の一つで、カンバン方式に似ています。
反復 (イテレーション) と呼ばれる短い開発期間単位を設定して、リスクを最小限に抑えながら開発を進めていく手法です。
クライアントとエンジニアが共同開発チームを結成し、開発全体を1工程2週間程度でできる量を目安に、いくつもの短い単位に分けていきます。
1単位ごとに要求の決定、実装、テスト、修正、リリースを行い、それを何度も繰り返して全体の開発を行うというものです。
もし、一気に全体の開発を進めて、それがクライアントのニーズに合わないものになってしまったり、不具合などが生じれば、大きな修正を迫られたり、場合によっては一から作り直すという必要も生じるかもしれません。
クライアントにとってもエンジニアにとっても、時間と費用の無駄であり、必要とするシステムの稼働が遅れることで、大きなビジネスチャンスや収益機会を失う可能性もあります。
ですが、小さな工程に分けて少しずつ完成させていくことで、問題が生じてもすぐに修正でき、クライアントのニーズをより理解して、次の工程をよりうまく進めていくことができるようになります。
カンバン方式の管理、運用方法とは?
カンバンをやり取りするというと極めてアナログな方式に思えますが、現在ではデジタル方式のeカンバンも登場しているので、現代的にアレンジしての利用も可能です。
過不足を起こさないこと、重複や欠如を起こさないよう、事前にタスクをすべて書き出し、工程表を作成して見える化を図り、メンバーすべてでタスクや工程を共有することが大切です。
カンバンがあっても、伝達がなされなければ意味がないため、運用方法についてもルールを作成するなど徹底を図りましょう。
カンバン方式を用いる際の注意点とデメリット
トヨタのカンバン方式は部品メーカー泣かせとの評価もあり、部品メーカーがいつ来るかわからないカンバンによる発注に備え、トヨタの工場の周りに部品を持って待機しており、交通渋滞や駐車違反が生じるなど、近隣に迷惑をかけたという話もあります。
今の時代、1つの業者だけが得をして、取引先や下請け業者などに負担を押し付けるのは許されません。
ブラックなどと呼ばれないよう、互いにWin-Winの関係が築けるような、現代社会に根差した運用スタイルを構築していくことが求められます。
メリットやデメリットを理解してカンバン方式を取り入れよう
カンバン方式の特徴やメリット、デメリット、事例や管理方法などについて、わかりやすくご紹介してきました。
カンバン方式はトヨタ自動車で生み出された無駄を省いた効率的な生産方式のことですが、タスク管理や在庫管理、アジャイル開発など、業種や作業工程を問わず、応用できる方式です。
効率性やコストの削減、生産性を高めたいときに企業に合わせてアレンジして、利用するのがおすすめです。