新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、在宅ワークが推奨されている中、都内にオフィスを構えるベンチャー企業が続々とオフィスの撤退をしています。
このような動きが継続的に起きてしまうと、都内オフィスの空室率や推定坪単価にも影響してくることでしょう。
本稿では、 オフィスを解約するベンチャー企業が増える中で、オフィス解約の代表的な事例と都内オフィスの推定坪単価·空室率の推移ついて解説していきます。
新型コロナによる都内オフィスの空室の推移
新型コロナウイルスの影響により、働き方も大きく変わってきています。
具体的には「三密回避」「固定費の削減」「テレワークの導入」に伴い、名だたる企業が完全リモートでの勤務形態に移行している状態です。
代表的な事例としては、大手IT企業の「富士通」が勤務形態を在宅ワークにすることで、オフィスを大幅に削減する動きがありました。
また、名刺管理サービスを提供しているSansanもオフィスの一部を解約するなど、IT企業を中心にオフィスの削減、及び撤退の動きが盛んになってきています。
特に、IT企業はパソコンとWi-Fi環境が整えば場所を問わずに仕事ができて、リモートワークとの相性が良いため、高い賃料を払ってまで感染症拡大リスクの恐れがあるオフィスを構える必要性が薄いのです。
ここに出した事例は不動産関連の企業からしてみれば氷山の一角に過ぎず、数多くの企業がオフィス撤退をしています。
有名ベンチャーのオフィス解約事例
有名どころのベンチャー企業がオフィスを解約をした具体的な事例を紹介してきます。
例えば、BtoB企業のマーケティング支援をしている株式会社才流(サイル)を始め、ドライブシェアアプリ「CREW(クルー)」の運営元となる株式会社Azit(アジット)などが挙げられます。
また、サービス業の店舗向けに情報共有を動画サービスでしているClipLine株式会社など、名だたる企業がオフィスを解約しています。
弊社オフィスは、今月末までで解約しました!
— 吉兼 周優(Azit・CREW Express) (@shuyu_y) May 27, 2020
ベースはリモートワークに移行していきながら、集まるためのコミュニティスペースとしてコワーキングを借りて、フレキシブルコストで経営していきます。
モビリティ(可動性)の会社なので、機動的にやっていくぞ! pic.twitter.com/uswfJivQ1Q
1〜2年はテレワークになる前提で、オフィスも解約しました。
— 栗原 康太 | 才流(サイル) (@kotakurihara) April 15, 2020
テレワーク普及後は、仕事は家で、人と人の交流を貸し会議室等でやることになると予想。予想が外れたら、再度オフィスを契約します(笑) https://t.co/cO5MDI0PZ2
ただオフィス解約に対してネガティブな意見はあまり見受けられず、リモートワーク期間中の社内でのパフォーマンスがより良くなったというポジティブな意見が多く散見されたのも特徴的でした。
コロナ後の都内オフィスは空室率が3倍
企業のオフィス解約が続くと、当然のことながら都内オフィスビルの空室率にも大きく影響が出てきます。
新型コロナウイルスの感染拡大ニュースが取り沙汰される前の2019年9月の空室率は1.6%と、ほぼ空室はゼロの状態で、募集を開始したらすぐに契約が決まってしまうほどでした。
しかし2020年9月の空室率は4.43%まで上昇し、昨年同月比でおおよそ2.5倍~3倍の空室率になります。
また、日本総合研究所の予測によると、東京都心の全就業者の内10%が在宅ワークに移行した場合、オフィスの空室率がおおよそ15%まで上昇するといいます。
空室率の上昇による平均賃料の下落傾向
空室率の上昇により、平均賃料も下落傾向にあります。
都心5区(新宿区、渋谷区、港区、中央区、千代田区)の8月平均募集賃料が前月比0.83%下落し、3.3平方メートル2万2,822円となっています。
都心のオフィス賃料が下落するのは80ヶ月ぶりです。
東京全体の平均坪単価への影響
空室率の上昇に伴い、東京全体の平均坪単価にも影響はあるのでしょうか。
東京全体で見てみると、意外にもそこまで平均坪単価に大きな変動はありませんでした。
その理由は大きく分けて二つです。
一つ目は、スタートアップなどのフットワークが良い企業は在宅ワークに移行しやすく、オフィスを解約しても100坪以下のテナントが多いから。
二つ目は、契約期間内に解約してしまうと違約金が重くのし掛かってくるため、契約期間満了までステイの状態だからなのが理由です。
そのため、東京全体で見るとそこまで大きな影響とはなっておらず、今でもオフィス賃料は一坪2万8,000円台で安定しています。
敢えてオフィスを持つことが競争力に?
ここまで、コロナウイルスの影響で多くのITベンチャー企業オフィスを解約する動きが活発になっていることを解説してきました。
しかし、その一方でGMOグループ代表の熊谷さんは「オフィスがあることが競争力になる」という見方をしています。
以下、ITメディアさんが熊谷さんにインタビューした時に述べていた内容です。
「象徴としてのオフィスは必要だ。信用力、ブランド力、ライバルとの差別化、求人における価値など、企業を永続的に存続させるためには、一等地のビルにオフィスを構えていることが長期的に見て、力の源泉となる」
参考:攻める総務公式サイト
つまり、オフィスがあることで企業のブランディングや信頼度に繋がったり、求人や採用の際にも企業の価値を高めてくれたりと、企業がオフィスを構えるメリットもあるとインタビューで述べています。
身近な例でいえば、筆者の知人は創業間もないスタートアップを経営しており、コロナ禍において敢えてオフィスを残したことで、優秀な人材採用に繋がったケースこともあったそうです。
知名度の無い小さい会社ほどオフィスがあることで信頼度が増して人が取れるということもあるということです。
言い換えれば、オフィスはコスト的に見合わない面があるケースも多いが、企業やフェーズによっては「オフィスを持つことは競争力になる」ともいえます。