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トヨタ自動車株式会社は日本を代表する企業で、その生産方式は「世界のモノづくりを変えた」とまでいわれています。
あらゆるムダを徹底的に排除した理想的な生産体制として、多くの企業で参考にされ、その理念を取り入れている企業も多くあります。
本記事では、「トヨタ生産方式」の概要と、メリット·デメリット、導入事例を紹介します。
トヨタ生産方式とは?どんな生産方式かわかりやすく解説
トヨタ生産方式はどのようなものでしょうか。その特徴は、徹底してムダを排除し生産を合理化している点にあります。
緻密な生産計画と徹底した管理により生産ラインを効率化し、あらゆる生産コスト·管理コストのムダを省くことに成功しています。
まずは、このトヨタ生産方式を支える2つの基本思想について解説します。
ジャストインタイム
ジャストインタイムとは「必要なものを、必要なときに、必要なだけ」生産するという考え方で、機会ロスを低減するために豊富に在庫を抱え、大量生産するといった生産手法とは一線を画すものです。
部品在庫を適時必要な量保有するようにし、大量の在庫を抱えることによる管理コストを削減しています。
しかし、ギリギリの部品しかもたないため、万が一欠品が発生すると生産が止まり、時間を大きくロスしてしまいます。それを防ぐための管理手法が「カンバン方式」と呼ばれるものです。
カンバン方式
余計な在庫をもたず、生産を効率化するためにトヨタが生み出したのが「カンバン方式」という管理手法です。
トヨタでは部品在庫に使用状況や残数を含め、生産に関わる詳細な指示に「カンバン」と呼ばれる「指示書」を活用します。
これにより、工程間の情報伝達や管理の精度を上げ、生産効率の向上を図っているのです。
自働化
「自動化」ではなく「自働化」です。ニンベンの「働」を使用するところにポイントがあります。つまり、単純な機械による「自動化」ではなく、そこに必ず人の手を加えるという意味で使用されるトヨタ独自の言葉です。
この「自働化」は不良品が発生することにより生じるロスを防ぐのに、大きな効果を上げている手法です。
例えば、生産ラインに異常が発生した場合、生産ラインを止めてでも、原因追求を徹底的に行います。
生産効率を落としてしまうように感じますが、それは不良品を大量に生産することにより発生するロスよりも、はるかに小さいロスで済むという考えにもとづいています。
トヨタはこうした活動の積み重ねにより、不良品の発生を抑え、品質向上を図りつつ、生産効率の向上に成功しているのです。
トヨタ生産方式の基本となる4つの手法について
「ムラ·ムリ·ムダ」を無くす、トヨタ生産方式の基本となる4つの手法について解説いたします。
トヨタ生産方式の基本は、本質的な効率化のために、目先の些細な問題を放置せず、その場で確実に解決していく「急がば回れ」の姿勢であるといえます。
カイゼン
「カイゼン」とは「改善」をカタカナで表記しています。海外にも浸透しており「Kaizen」と表記されることもあります。
「カイゼン」は組織としての課題発見力を向上させる取り組みであるといえます。
トヨタでは現状の生産体制に満足せず、生産効率や安全性の向上を常に追求する姿勢を重視しています。
この「カイゼン」を行動基本として従業員に浸透させることで、一見些細な非効率を放置せず、生産効率の最適化を図っています。
問題の見える化
トヨタではトラブルや問題が発生したときに、それを隠すのではなく、広く共有する仕組みが確立しています。それが「問題の見える化」です。
トラブルが発生したときに、あえて生産ラインを止めて原因追求するルールは、この「問題の見える化」のためにあるといえます。
生産はストップしますが、問題を放置したことにより、後に大きなトラブルへの発展を防ぎ、再発防止にもつながります。
「問題の見える化」を徹底することで、情報の共有が促進され、高い精度をもった生産体制が組織的に構築されるのです。
なぜなぜ分析
トラブルや問題が発生したとき、解決や再発防止には原因追求が欠かせません。トヨタでは、表面的に終わらせず、本質的な原因まで追求する姿勢を浸透させています。
それが、「なぜなぜ分析」です。「なぜなぜ分析」は、1つの問題の原因に対し、「なぜ」という問いかけを5回繰り返すルールです。
このルールによりトラブルの根本的な原因を明らかにし、再発を防ぎ生産効率を向上させています。
7つのムダどり
トヨタにおいて、「ムダ」とは生産現場における「付加価値を生まない作業」と定義されています。
トヨタ生産方式におけるムダとは以下の7つです。
- つくりすぎのムダ
- 手持ちのムダ
- 運搬のムダ
- 加工のムダ
- 在庫のムダ
- 動作のムダ
- 不良をつくるムダ
この7つのムダを徹底して排除することにより、組織全体の生産性向上に成功しています。
トヨタ生産方式のメリットとデメリット
トヨタ生産方式のメリットとデメリットについて検証していきます。
トヨタ生産方式のメリット
「カンバン」と呼ばれる指示書を活用することは、さまざまなメリットをもたらします。
部品在庫の使用状況を「見える化」し、在庫を最小限にすることで、保管スペースや管理コストが削減できます。
また、指示書を統一したフォーマットにすることで、情報が一元化され管理しやすくなるメリットがあります。工程間の意思疎通もスムーズかつ正確になるため、間違いの発生を抑えることにつながっています。
トヨタ生産方式のデメリット
トヨタ生産方式のデメリットは、大規模な企業にしか通用しにくい点にあります。
トヨタ規模の企業であれば、部品を適時必要な量だけ購入したとしても、企業全体の購入量は莫大なものがあり、スケールメリットが活かせます。
しかし、多くの企業はそうではありません。スケールメリットを活かすには、生産計画を綿密に立て、一定期間に必要な部品をまとめて購入する必要があります。
このほか作業の平準化や安定受注が前提となるため、多種多様な製品を少数生産する場合や、時期により生産量に増減がある業種では、導入が難しいといえます。
トヨタ生産方式を取り入れた導入事例
中食の分野でトヨタ生産方式を取り入れた企業があります。高級惣菜店「RF1」や「神戸コロッケ」などのブランドを展開する、株式会社ロック·フィールドです。
全国300以上の店舗で販売する惣菜を、原料の調達から自社工場での生産、店舗への物流、販売を一貫して行うことで成長してきた企業です。
2001年にトヨタ自動車から業務改善のプロを役員として招き入れ、当時生産をまかなっていた3つの工場において、トヨタ生産方式を導入しています。
生鮮食品を扱う、惣菜工場においても全国に展開する店舗の顧客の需要にあわせて、「ジャスト·イン·タイム」で商品を製造·運搬し、鮮度を保ちつ生産性を向上させています。
あわせて、食品企業の課題である廃棄ロス(ムダ)の削減まで成功させた事例です。
トヨタ生産方式を導入する際のポイントとは?
トヨタ生産方式は、上手く取り入れることで生産効率を向上させます。しかし、安易に導入したことにより、失敗する企業も少なくありません。
前述の通り、スケールメリットを活かすにはある程度の規模が必要となること、また導入において現場の生産体制を大幅に変更する必要が生じ、反発を招く危険性があります。
導入を検討する際には経営層や管理層だけでなく、現場の意見を取り入れて、自社にあった形でアレンジする必要があるでしょう。
まとめ
トヨタの業務改善は、「自働化」という言葉に象徴されるように、働く人の知恵の集積であるといえます。昨今では、製造業以外の業種においても参考にされ、アレンジを加え導入されています。
トヨタの理念である「モノづくりは人づくり」は、あらゆる業種に共通する「人材」の重要性を示しているのではないでしょうか。