医療業界では昨今PHRという言葉が聞かれるようになりました。
オンライン診療の導入が進んできたことで注目されるようになったPHRですが、どんな言葉なのかよくわからないという方も多いのではないでしょうか。
本記事ではPHRについて意味やPHRを活用するメリット、課題などについて解説しますので参考にしてください。
PHRとは?
PHRとはPersonal Health Recordの頭文字を取った言葉で、病院ではなく個人が自身の健康や医療、介護などに関する情報をデータとして記録、管理する仕組みのことを指しています。
イメージ的には生まれてくる赤ちゃんの情報を手帳にまとめて記録をつける「母子健康手帳」のようなものと考えられることができますが、母子健康手帳と違い、PHRはデジタルを活用したデータ管理を行います。
PHRは、一人ひとりが自身の健康や医療に関するデータを生涯にわたって管理・活用することで健康管理や最適な医療サービスの利用に活用することができるとして昨今注目されているのです。
新型コロナウイルスの影響によって対面での診療が難しくなったこともあり、オンライン診療が促進されるようになりましたが、日本に元々あった「手帳文化」についてもデジタル化してデータを一元管理、より管理・活用がしやすいようにしていこうという動きが活発になっています。
2020年度の時点でPHRを含んだ日本のデジタルヘルスケアサービスの市場規模は869億円と言われており、今後PHRはもちろん、様々なデジタルヘルスケアサービスの成長が見込まれており、市場規模は益々拡大していくでしょう。
PHR活用のメリット
診療時の判断がしやすくなる
医療のプロとはいえ、限られた時間や情報だけでは適切な治療判断を下すのは難しい場合もあります。
そんなとき、PHRで日常生活の様子や診療データが確認できれば、どのような治療を行えばよいのか判断がしやすくなるのです。
PHRに記録してある血圧や体重などのデータの経過を確認すれば、データに基づいた客観的なアドバイスもしやすくなるでしょう。
健康管理を促進できる
診療時にアドバイスをしただけではなかなか日常生活の行動を変えていくのは難しいという患者さんもいることでしょう。
生活習慣病などの場合は、一時的ではなく生涯病気と付き合っていくこともあるため、生活習慣の改善は患者さんにとっても身体的・精神的にも負担が大きいものです。
そういった時にPHRであれば患者さん自身が測定した血圧や血糖値などのデータをアプリに記録することができます。
普段から記録しているデータを適宜スマートフォンなどの端末で手軽に見直すことができるので、継続的な治療を実現しやすくなります。
災害や救急時のデータ活用ができる
災害が発生した際や緊急で搬送された際でも、PHRですぐに健康データについて確認できればアレルギー情報などを参照した上で適切な処置をすることが可能となります。
迅速かつ正確な処置が求められる医療現場においてはPHRの活用は非常に大きなメリットとなるのです。
新しいサービスの提供につながる
保健業界では、個人の健康状態に応じた保険料や新しいサービスを提供していくことで、顧客ニーズを満たして新規契約者の獲得、サービス品質の向上を図ろうという動きが進んでいます。
また、PHRに記録されているバイタルデータと健診結果を統合することで、一人ひとりに最適化された健康増進プログラムを提供できるようにもなります。
患者さんとのコミュニケーション手段が増える
PHRサービスの中には医療機関と連携することでチャットベースのコミュニケーションを可能とするものもあります。
患者さんとの連絡手段といえば電話が一般的で、一部でメールでのやりとりが可能な場合がある程度でした。
PHRのチャット機能を使えば、自由にメッセージを確認して応答することができるようになるため、医療機関にも患者さんにも負担を強いることなくコミュニケーションをとることが可能となります。
PHRの課題
浸透率を上げていくことが難しい
医療従事者であればまだしも、一般の方でPHRという言葉を知っている方はどれだけいるでしょうか。
PHRの利用にはアプリをインストールできるスマートフォンやタブレットなどを所持していることが必須条件となります。
若年層であればスマートフォンの普及率は高いものとなっていますが、年配の方にとってはスマートフォンの操作は難しいものでしょう。
最近では高齢者の方でもスマートフォンを所有している率は上昇傾向にありますが、使いこなせているかといえば決して数字と比例した結果とはいえないはずです。
デジタルデバイスの利用が難しいと感じている世代に対しての対応や、インターネットを介することで生じるセキュリティリスクについても課題として取り組んでいくことが求められます。
まとめ
PHRについて基本的な意味から活用するメリット、課題について解説しました。
スマートフォンの普及に伴い、知らない間に利用していた健康管理アプリもPHRサービスに含まれるということが今回の記事を読んでお分かりいただけたでしょうか。
PHRサービスの活用は今後も自治体や国が主体となって進められていきます。
2021年10月からはマイナンバーを活用したPHRの利用が始まっており、健康保険証代わりとしてマイナンバーカードを利用することが可能となっています。
特定健診や薬剤情報、医療情報がマイナポータル(政府が運営するオンラインサービス)に蓄積されるようになっており、これによって病気の予防や健康促進に活用されていくこととなります。
患者側も、マイナポータルから自身の特定健診の情報や病院で処方してもらった薬の情報が手元の端末から手軽に確認できるようになるのでメリットは大きいでしょう。
災害時でもマイナポータルから薬が必要な人の情報を確認できることで、迅速かつ的確な処置が可能となり、医療の質が向上します。
課題はまだまだ多いものの、PHRの活用によって医療側・患者側双方にもたらすメリットはとても大きなものですので、今後より多くのPHRが利用できる環境が整備されることを望みます。