昨今、トレードオフという言葉をよく耳にします。
トレードオフとは「両立しない関係性」を示す言葉です。
わかりやすくいえば、「何かを得るために、何かを失う」という関係性のことです。
近年のコロナウイルス感染防止対策と経済活動は、まさにトレードオフの関係にあるといえます。
本記事では、トレードオフという言葉の意味から、ビジネスや経済学で使われる際の具体例まで紹介します。
トレードオフとは?ビジネスシーンでよく耳にする言葉の意味
トレードオフとは「両立できない関係性」のことで、ビジネスシーン、特にマーケティングの分野でよく耳にします。
「ある一方を選択すれば、他方が成り立たない状態になる」「一方が得をすればもう一方が損をする」といった関係性のことです。
トレードオフの解消そのものが経営課題となる場合も多く、ビジネスシーンでよく聞かれる理由でもあります。
ビジネスにおけるトレードオフの関係について、例を見ていきましょう。
価格と品質の関係
例えば、品質と価格は両立しにくい関係性にあるといえます。
競合他社に打ち勝つためには、高品質な商品を低価格で提供することが理想的です。
しかし現実には、以下のような状態になることが多いのではないでしょうか。
・ユーザーが買いやすい価格設定にするためには、機能を限定しなければならない
・ユーザーが求める機能を装備すると、販売価格を上げざるを得ない
機能面と価格面、どちらかを充実させると、どちらかが犠牲になるといった関係性です。
この場合、理想の状態である「高機能な商品を低価格で提供する」にはどうすれば良いのか?が経営課題となるでしょう。
実際には品質・機能と販売価格のバランスを総合的に判断し、どちらかもしくは両方を妥協させつつ、落とし所を探ることになるのではないでしょうか。
あるいはターゲットを絞り、いずれか一方に特化した製品を開発することになるでしょう。
需要と在庫の関係
需要がある製品を販売する場合、欠品によるチャンスロスを防ぐため、多くの在庫をもちたいと考えます。
しかし多くの在庫をもつことは、売れ残りのリスクや管理コストの増大というデメリットをもたらします。
この問題を解決する現実的な方法は、資金繰りを考慮しつつ、需要にギリギリ対応できる在庫量を予測して売り場を回していくといったことになるでしょう。
経済学におけるトレードオフの具体例
経済学においてもトレードオフの関係はよく見られます。
代表的な事例を2つ紹介します。
物価と失業率の関係
経済学者フィリップス氏が提唱した「フィリップス曲線」は、物価と失業率のトレードオフ関係を見事に示しています。
一般的に物価と失業率の関係は以下のようになるとされています。
・物価が上昇すれば失業率は低下する
・物価が下降すれば失業率が上昇する
物価が上昇すると、企業の業績は向上し雇用が増えるといった状況になります。
反対に、物価が下がれば企業の業績は低迷し、リストラ等で失業者が増加するということです。
経済成長と環境破壊の関係
高度経済成長期の日本における公害の問題は、まさしく経済成長と環境破壊、両者のトレードオフの関係にあったといえます。
かつての公害は社会問題となり、各社の企業努力で解消に向かいました。
しかし昨今では、地球温暖化におけるCO2の問題が、経済と環境のトレードオフ関係の代表格となっています。
増税と社会福祉の関係
社会福祉を充実させるには、原資が必要になります。
当然、その原資は税金でまかなわれることになります。
・社会福祉を充実させようとすれば、増税は避けられない
・減税をすれば社会福祉は制度を維持できない
これもトレードオフの典型的な関係性であるといえます。
経済学やビジネス以外で使用されるトレードオフの事例
経済学やビジネス以外でもトレードオフの関係は存在します。
意外な分野では生物学においても事例はあります。また私達の日常生活においても、トレードオフはさまざまな局面で発生しています。
生物学におけるトレードオフ
生物学においてのトレードオフは、進化の過程で発生します。
例えば、飛ばない(飛べない)鳥の例です。
ペンギンやダチョウは鳥類でありながら飛ぶことはできません。
しかし、ペンギンは海のなかを自由に泳げますし、ダチョウは陸上をものすごいスピードで駆けることができます。
進化の過程で鳥類が本来もっている「飛ぶ」機能が衰退し、環境に適応した結果、ほかの鳥類がもたない機能を手に入れたのです。
日常生活におけるトレードオフ
私たちの日常生活において、トレードオフの関係は多数存在します。
しばしば、悩ましいものとして認識されることが多いのではないでしょうか。
・痩せたいけれど、好物の甘い物はやめたくない
・健康になりたいけれど、お酒やタバコをやめたくない
・お金はたくさんほしいけれど、仕事よりもプライベートを充実させたい
など、挙げだしたらキリがありません。
トレードオフの類語と日本語に訳した場合の的確な表現とは
トレードオフを日本語で訳した場合、もっとも的確なものは何でしょうか。
トレードオフの日本語訳
一般的にトレードオフの日本語訳としては、「代償」「矛盾」「二律背反」「一得一失」などが類語として挙げられます。
辞書(広辞苑)には次のように表記されています。
「同時には成立しない二律背反の関係。物価安定と完全雇用の関係など」
「一得一失も」も何かを得るため何かを失うという意味ではトレードオフの関係性をよく表している日本語といえます。
しかし、「両立しない二者の関係性」と捉えた場合、「二律背反」がトレードオフのニュアンスを的確に表しているのではないでしょうか。
機会費用とは
トレードオフに関連して、よく使われる言葉に「機会費用」というものがあります。
機会費用とは、ある選択をしたことにより失われる、他の選択をした場合に得られたであろう利益のことを指します。
機会費用は目に見えないため、その存在を認識しにくいものです。
特に経営層においては、この概念は意思決定において非常に重要なものとなります。
例を挙げます。
新商品を展開しようとするA社。
現在の生産ラインを1ヶ月停止させ、3億円の設備投資をして新商品を生産しようとしています。
このラインが1ヶ月稼働して生み出している売上は10億円です。
この場合の新商品の売上目標は、投資額の3億円プラス、ラインを止めなければ得られていた売上10億円の合計13億円以上でなければなりません。
そうでなければ、この選択は間違ったものとなってしまいます。
実際には、現状の商品と新商品の将来性の差なども加味されるため、一概に間違った選択といい切ることはできません。
しかし、経営上の大きな選択をする際には、機会費用の概念は必須のものとなるでしょう。
まとめ
本記事では、トレードオフという言葉について、意味や的確な日本語訳、さまざまな分野の事例について解説してきました。
人生やビジネスは決断の連続です。
ひとつの決断は、それ以外の決断をした場合に「得られたかもしれない利益」を手放すことでもあります。
後悔のない決断をしたいものです。